今回は、海外信託を用いた相続対策スキームに係る贈与税決定処分の取消しを巡る裁判(平成20年(行ウ)第114号)で平成23年3月24日に名古屋地裁から判決を言い渡され、国側が敗訴した事例をご紹介したいと思います。
本件は、信託の設定者で米国の非居住者である祖父が、米国の信託会社との間で、祖父保有の米国債500万ドルを信託財産とし、これを祖父の子を被保険者、受託者である米国の信託会社を保険契約者・保険金受取人とする生命保険契約を締結し、この満期保険金または死亡保険金を受益者で米国籍のみを有する米国の居住者である祖父の孫(原告)に分配する仕組みでした。
なお、当該信託契約は、解約変更不可能型の信託で、受託者は自己の裁量で信託財産の分配を決めることができ、保険金が支払われたとしても直ちに原告へ支払う義務がなく、限定的指名権者である祖父の子(原告の父)は原告以外の者を受益者として指名できることとされていました。
信託行為があった場合に、委託者以外の者が信託の利益の受益者であるときは、信託行為があった時に、委託者から受益者へ信託の利益を受ける権利を贈与により取得したものとみなされます(平成19年改正前相続税法4条)。
国側は本件について、米国債を引渡した時点で原告が受益者であるとして、贈与税の決定処分を行いました。
しかし、名古屋地裁は、本件信託は生命保険への投資とする信託で、信託費用を除く440万ドルすべてが一時払保険料として払い込まれているため、受託者は原告の父の死亡時または満期時まで受益者へ分配できる資産がない点、保険金も直ちに受益者が満額受領することができず、受託者の裁量により決定される点、限定的指名権者である原告の父の裁量により原告以外の者が受益者となることができる点などから、原告が信託設定時において、信託による利益を現に有する地位にあるとは認められないとして、原告が受益者に当たることを前提とした課税処分は、その余の点を判断するまでもなく違法であると結論付けました。
同様のスキームを検討する場合、少なくともこの地方裁判を留意したものにしておく必要があると思います。